六甲山での物流ドローン実証実験を取材させていただくため、1泊2日で出かけてきた。早朝6時に京都のホテルをチェックアウトし、意気揚々と六甲山上にたどり着いた10分後、悪天候による取材中止の連絡が入った・・・(笑)。
けど、実際に現地を訪れてみて、本当に良かった。今回は、六甲山について分かったこと、感じたことをまとめてみた。(主な目的は自分自身の備忘録として。)
六甲山上への交通について
今回は、公共交通機関を乗り継いで、東京から行った。9:30の集合に遅れてはいけないと思い、(それを口実に?笑)京都に前泊。
京都を選んだのは、京都駅は在来線への乗り換えが楽だから。あと、京都〜JR六甲道を快速で移動するのが、現地までの乗り換えが一番分かりやすかった。
京都から六甲道まで、片道1時間。早朝6時20分発の快速に乗車するも、立っている人も多く驚いた。なんとか座れて良かったけど、ちょこっと軽食をいただくとかは全然無理だった。
六甲道からは、バスで20分。六甲山ケーブル下行きに乗車。こちらも混雑。
すごく印象的だったのが、小学生が20名ほど乗ってきたこと。バス降車後は、ケーブルカーで登校していた。
山上に、小学校があるらしい。ちなみに、ケーブルカーの後さらに、バスに3分乗って、ようやく到着するとのこと。
私はというと、ケーブルカーに静かに乗りたいなと思い、集合時間までかなり余裕があったこともあり、1時間にたった3本のケーブルカーを、1本見送った。
この時点で、小雨。「ドローン、飛ばないかなもなあ」とは思っていた。まあ、風の方がシビアなはずだから、ワンチャンあるかと思いきや、、、。
約10分のケーブルカー乗車という、私にとっては非日常のひとときを楽しんだ後、「実証実験中止」のご連絡をいただく。
六甲山ビジターセンターへ行くことに
まじか〜(笑)。京都からの快速に乗ってスヤスヤしながら、ドローンが上空から手を振ってくれてる夢を見るほど、楽しみにしてたのに。
集合の1時間ほど前。私、六甲山上(集合場所までバスで3分のところ)。笑ってしまった。
あとちょっと早く教えてくれれば・・・。とは、ちょっぴり思った。
飛行以外に説明会とかもナシなのか〜・・・。とも、ちょっぴり思った。
けど、いちばん残念なのは、これまでいろいろと準備してこられた実証実験主体者の関係者のみなさま。電話越しのお声は、とても申し訳なさそうだったので、もうほぼ現地にいるんですけどとは言わなかった。私もとても残念だった。
ケーブルカー駅構内にある雀の巣を、2分ほど呆然とみていた。元気に飛び回っていてかわいいな。目の前をヒュンヒュン飛んでいく。
で、やっぱり、実証実験の現場を、見ておこうと思った。せっかくこんなに至近にきたのだもの。
それに、六甲山について情報が集約していそうな「ビジターセンター」の存在も気になっていた。元々は、六甲山付近に前泊して、ここで情報収集やロケハンしたいと思っていたし。
ケーブルカー駅構内にある自販機で、ホットコーヒーを飲んで、ちょっとほっこり。山上は、山麓よりも6℃近く気温が低いらしく、肌寒かった。
雨もしとしと。ツバメは相変わらず元気。気を取り直してバスに乗りこみ、「六甲山ビジターセンター」に向かった。
六甲山上スマートシティ構想
ドローン物流実証実験の取材で、旅メディアでもないのに、なぜ現地ロケハンしたいと思っていたか。
それは、神戸市が2020年5月28日に「六甲山上スマートシティ構想」を発表したことが気になっていたから。「6月から企業誘致を始める」とのことだった。
さらにその前日、5月27日には、スーパーシティを整備するための改正国家戦略特区法が成立している。
これは、住民や企業のデータを活用して、自動運転やドローン配送、遠隔医療などの最先端技術の実証実験を、町全体で行うもので、2020年夏からスーパーシティに指定する自治体の選定、秋以降に全国5か所ほど指定される予定だ。
(ちなみに、スマートシティとスーパーシティの定義について、恥ずかしながら理解が曖昧なところがある。勉強しなくちゃ。)
ネットでは、六甲山上へのネガティブな意見もある。交通が不便、交通渋滞がものすごい、夏でも湿度が高く快適ではないなど。「なぜここに企業誘致するのか」という批判的な意見もあった。
実際に行ってみた感想としては、「確かになあ〜」とも思う。京都から2時間かかった。東京から気軽に行こうとはなかなか思えない。
でも、いいんじゃないかな。
コロナウイルスによって“後押し”されたリモートワーク。三密を避けて暮らすニーズの高まり。
六甲山にこもることで、QoL(Quallity of Life)や労働生産性の向上を求める企業も増えると思う。
そうした企業が集積されることで、六甲山上の新たな価値が注目される兆しも生まれるかもしれない。
六甲山の歴史
六甲山といえば、夜景が綺麗とか、有馬温泉に近いとか、観光・レジャーのイメージが強かったけど、かなり歴史の古い場所だった。
「六甲山ビジターセンター」で視聴した動画で、各エリアの特徴をかいつまんで理解することができ、とてもありがたかったなか、まず印象深かったのは、その歴史だ。
例えば、荘厳な磐座を御神体とする六甲比命神社。この磐座は、縄文時代に巨石を積み上げて作られた人工的な磐との説もある。
お隣の摩耶山には、日本で唯一摩耶夫人(お釈迦様のお母さん)堂が建つ摩耶天上寺があり、大化の改新の翌年創建だ。
六甲山上からロープウェイで12分の有馬温泉も、神々によって発見されたと日本書紀に記され、古代より天皇が行幸した地としても有名。
鎌倉以降の武家の時代になってからも、多くの武将と縁があるようで・・・これは調べ甲斐がある・・・。
私は神話の時代からの御由緒がある土地には惹かれる傾向があるので、六甲山もそうなのか・・・と、とても興味深かった。
自然信仰の地として古代人から“選ばれた”土地なのだと思うと、やっぱり汚しちゃいけないなあと思うし、古来から人々の心をひきつけた土地の魅力を、後世に残せたらよいなと思う。部外者ながら。
いずれにせよ、悠久の時を経て、六甲山上の文化が形成されている。
近代の六甲山
近代の出来事は、また別の視点で興味深かった。
いまでこそ、自然豊かな六甲山上。鳥のさえずりが、静かな雨霧に混じって、たくさんの種類のさえずりが聞こえる。
六甲山には6方向からの風向きのおかげで、植物や動物の種類も豊富なのだとか。
その環境に、わずか2時間の滞在でも心から癒されたのですが、江戸時代後期から明治にかけては、なんとハゲ山だったんですって!
伐採や戦など、六甲山のいたるところにハゲができて、ハゲてるゆえに太陽の照り返しまで厳しかったそう。
荒廃しきった六甲山を蘇らせたのは、イングランド出身の実業家、アーサー・ヘルケス・グルーム氏。「六甲山の開祖」と呼ばれていて、「六甲山ビジターセンター」には銅像もあった。
長崎グラバー商会の出張員として、神戸開港を機に来神したグルーム氏。日本茶の輸出や紅茶の輸入をし、日本人の宮崎直さんとご結婚。
もともと狩猟好きで、六甲山で狩猟をするうち、六甲山が気に入って、三国池近くに別荘を建てた。
六甲山ビジターセンターで読ませていただいた本によると、仏教にも熱心で、かつて六甲山で無用な殺生をした過去を悔い改めるかのよう、植樹や登山道整備に私財を投じたとのこと。
パンやケーキなどの職人さんたちも、たくさん移住してこられたようで、六甲山には外国人墓地もあった。
六甲山からどことなく感じられる西洋風な気品みたいなものは、こうした歴史があるのだなあ。
神戸市は数年前から、国内外のスタートアップ企業誘致にも積極的な印象。
もし、六甲山上にヨーロッパ企業が拠点を構えたら、居心地いいかもしれない。
神戸の異国情緒溢れる文化を築いた礎になった方々が、きっと六甲山上には多く眠っていらっしゃる。
土地の文化って、そうやって紡いでいくものなのかもしれない。
六甲山の治山
六甲山は、流木や、豪雨の際の土砂災害、震災など、様々な災害から災害対策にもとても意識が高いエリア。
治山ダムの強化、自然傾斜対策、災害に強い森づくりなどのハード面や、山地災害危険地区の周知、住民参加に夜自主防災組織強化など、ソフト面でも、対策を積極的に行われている、と展示を拝見。
ちなみに、「六甲治山事務所」は、日本で唯一の治山事業専門の事務所だそう。
物流ドローンが定期的に運行されれば、有事の際の備えもまた取り掛かりやすくなるはずとも思った。
六甲山上に住んでみたい
すぐに2拠点生活したくなる癖といいますか・・・
昔、「じゃらん」で広告制作ディレクターをしていたときも、箱根、出雲、南紀に住みたくなってしまったことを思い出したけど、
六甲山上にも住んでみたい。
歴史や文化があって、自然が豊かで、四季を通じてさまざまな表情があって、足を伸ばせば有馬の名湯、さらにドローン配送が実現したら、もはや山上にこもりたい。
けれども、思い出すのは、重たいランドセルを背負って、朝早くからバスで通学していた小学生の子供達。ケーブルカー乗るところまで、お見送りに来ていた、お父さんやお母さん。
これが毎日だったら、楽ではないかも。実際に住んでいたら、不便だと思うこともあるんだろうな。
でも、こんなにも素晴らしい土地を人生のベースにできることは、大きな財産になるはずだと思った。
ここにテクノロジーの活用が上手く進むことで、不便さが解消されていくことは、とても価値があることだと感じた。
私にできることは、その土地のことをできるだけ深く知って、現在にいたるまでの土地の歩みを踏まえて、いまその土地で起きていることの価値を、わかりやすく伝えていくことなのだと、改めて考える機会になった。
なので、やっぱり、行ってよかったと思う。