2020年9月16日、OECD東京センター所長 村上由美子氏とリンクトイン村上氏が徹底議論「VUCA時代の意思決定力」をオンライン聴講しました。個々人が今後のキャリア形成を考える上で、大変示唆に富む内容だったのでメモとして残して置きたいと思います。
ところで、当日のご登壇はお二人とも「村上氏」でした(笑)
この記事は、OECD 村上由美子氏のコメントを拾ってメモに残しておきたいと思って執筆したため、ここでの「村上氏」は由美子氏のことです。わかりににくてすみません。
女性活躍について
当日、最初の話題は「女性活躍」について。
女性の就業率は上がり、欧米同等もしくはそれ以上の数値にまで改善されている一方で、
「意思決定する立場にいる女性が圧倒的に少ない」という課題が明示されました。
これを解決していくためには、数値目標を追いかけているだけではダメだというのが、村上氏の主張。
女性を意思決定する立場に就かせることは、ビジネス的・経済的に効果的であるという認識と腹落ち感がなければ、管理職以上の女性は増えていかない、と。
具体的には、企業価値向上や儲かるといった効果が必要とのこと。
また、
「男性的な考え方をしている女性を増やしても意味がない」という村上氏の一言は、痛快でありフレッシュに感じた意見でした。
これまでは男社会で同等に渡り歩くために、ある部分では“女を捨てて”邁進せざるを得なかった諸先輩方を見て、逆に「ああはなりたくない」と若年層の女性がキャリア職を敬遠してきた歴史もあります。
「女性が女性的な部分を持ち合わせたまま、意思決定する立場に立つ」という企業文化を実現した企業が、これからは勝ちルートに乗っていくのだろうなと思いました。
多様性の必要性
女性活躍はひとつの多様性の実現です。
企業の多様性推進が、なぜこれほど必要だと言われているのか。これについても、意見が交わされました。
印象的だったコメントを記しておきます。
これまで男性中心だった社会に、違うものの見方やアイディアがもたらされることで、これまでは「1+1」は「2」にしかならなかったものが、「3」もしくはそれ以上になる可能性が増える。
これが、多様性がもたらす“果実”である、とのこと。
菅内閣が発足しましたが、早速、高齢の男性ばかりで、(40代前半の女性が首相をつとめる)デンマークと比較するなど、批判的なコメントが目立つ昨今。
これに対しても村上氏は、たとえ内閣が高齢の男性ばかりでも、「アドバイザーに多様性があればよい」という見解を示しました。
要は、多様なインプットこそが大事なのであるということ。
具体的には、菅内閣発足によって、デジタル化が大いに進もうとしていますが、デジタルを分かっている人はデジタルネイティブが多く、彼らから情報や意見を積極的に吸い上げて政策に生かすことができれば、これは多様性の推進につながる、といった旨のコメントもありました。
私は以前の取材で、積水ハウスの仲井社長が、「経営層が、自分の子供や孫との関わりの中から、その世代の価値観をインプットすることで、経営が変わっていく」という旨の話をされていたことを思い出しました。
世代間での情報交換が進めば、いろいろ円滑になるのは、どの組織でも同じですね。企業でも、家族間でも、おじいさん内閣でも。
ジョブ型雇用について
今年5月、トヨタ自動車の豊田章男社長が、「終身雇用は難しい」と発言し、これまでのメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行が、いよいよ現実味を帯びてきましたよね。そんな「ジョブ型雇用」にも、話題は及びました。
村上氏は、「日本型ジョブ型雇用」の必要性に言及。“ハイブリッド型”とおっしゃってました。
ジョブ型雇用が万能で、メンバーシップ型雇用が時代遅れでダメダメだということではなく、
メンバーシップ型とジョブ型のいいとこ取りをしたハイブリッドがいいと思うとのこと。
その理由は、「長期的な人材への投資を残すことが重要」だから。
日本的なメンバーシップ型雇用では、企業側も労働者側も、お互いに長期的な視点で育成/学ぶという付き合いができていたけど、
一方で、ジョブ型雇用は、まさに“Up and Out”の世界。労働市場においてスキルを持つ人材の適材適所が進む一方で、労働市場は流動化し、そうなると企業は人材への投資を躊躇するようになるとのことです。
確かに、今年2月に取材させていただいたat Will Workカンファレンス2020で、デロイト トーマツ コンサルティングの田中公康氏とともに登壇されていた、慶應義塾大学 商学部教授の山本勲氏(モデレーターは、at Will Work 理事 日比谷尚武氏)が、日本企業の教育研修費は右肩下がりであり、かつOJTの機会も減っていくなか、人材の能力開発が進まないことは、中長期的には企業の競争力低下に著しい影響を及ぼすということに警鐘を鳴らしておられました。
終身雇用だけやめて、ハイブリッドなジョブ型にする。それが日本にはあってる。村上氏の指摘には同意です。いろいろ難しそうだけど・・。成功企業があれば、ぜひ取材してみたいです。
vuca時代のキャリア開発について
「日本人は貧乏になってる」
耳の痛いコメントも飛び出しました。
冒頭の女性の就労率は上がったという話題には「but(けどね)」という文脈もあって、それは、非正規の割合が高いということ。
子育て・介護や病気の治療などと仕事の両立をする、いわゆる制約社員も増えている。高齢者の就労率も上がっており、大半が非正規として働いている。だから、一人当たりの労働時間は、下がっているとのこと。
これは私見ですが、1億総活躍は、みんなに働いてもらうという点では結構成功したのかもしれません。女性の就労率も改善された、高齢者の就労率も上がっている、もうこれ以上は働き手は増やせないのが日本の現状。あとは生産性を上げていくしかないフェーズです。
で、なぜ貧乏かというと、
「企業価値が上がっていないから」。
残業時間削減、長時間労働是正が叫ばれて久しいなか、村上氏は「時間を減らすより、どうやって付加価値を出すかが重要」だと明言されました。
付加価値を出すためには、イノベーションが必要。
いまあるサービスをいまのまま続けていても頭打ちもしくは下がるだけなので、新たなイノベーションをどうやって生み出して、付加価値を生み出していくかに、企業の存続はかかっているということ。
こういう時代に、では個人はどのようにキャリア開発をしていけばいいのか・・・。
私がこのウェビナーで一番知りたかったことはそこですが、
「いま、そしてこれからは、何が問題かも分からないくらい、混沌としていく時代。どうすればいいいのかという正解も分からなければ、問いも分からない。この時代で個人ができることは、視野を広げること」
このような指針が示されたことは、大変有益でした。
「自分のインプットが、いかに多様な視点から入ってきているのか」を常に意識して、意思決定していくスキルが重要になる、と。
そのためには、多様な縁を呼び込むネットワーク構築や、多様な人との対話、新たなことへのチャレンジなどが必要であるとのこと。
いろいろな取材をしてきて、
ここ1〜2年で、イノベーションの必要性がものすごくシビアになってきたということや、
仕事でもなんでもいいんだけど、個人として、やりたいことを掘り下げて、その過程で多様な人とのつながりを構築できている人が、生き残るな、ということを切実に感じていたのだけど、
このウェビナーを聴いていて、すごく思考が整理された気がします。
私の一番の収穫は、「多様なインプットを得られているかを常にセルフチェックし、意思決定して取捨選択せよ」という、具体的な行動指針を得られたことです。
動画はこちらから視聴できるみたいです。ぜひ。
OECD東京センター所長 村上由美子氏とリンクトイン村上が徹底議論「VUCA時代の意思決定力」
■不透明な時代の生き抜き方今回のゲストにお迎えするのは、OECD東京センター所長の村上由美子氏。日本の大学を卒業後、海外にキャリアを求め、国際連合や米国大手証券会社でキャリア積み、2013年に経済協力開発機構(OECD)に勤務。民間出身者として、初の東京センター所長に就任、活躍の場を広げています。自らの専門性を生かしながら、グローバル世界と日本の現状を比較する視点を育み、現在も様々な場で意見を投じています。VUCAとも呼ばれる先行きが見通せない時代、今回のライブでは、日本における労働市場の在り方、女性活躍、ダイバーシティとイノベーションの関わりなどについて、「意思決定力」をテーマにリンクトイン日本代表の村上と議論します。
LinkedIn Japan(リンクトイン・ジャパン)さんの投稿 2020年9月15日火曜日