講演「世界を席巻する実験都市深センとデジタルバレーで台頭する貴陽」

10月11日、日経グループアジア戦略セミナー「アジアのイノベーション最前線とグローバル人材」にて行われた、講演「世界を席巻する実験都市深センとデジタルバレーで対応する貴陽」を聴講して来ました。

エクサイジングジャパンCEO 川ノ上さん講演

登壇されたのは、2016年より深センを本拠地に活動されるエクサイジングジャパン代表取締役 川ノ上和文さん。2016年といえば、日本で深センが注目されるより少し前ですね。当時、川ノ上さんからお話を聞く前は、私も全くイメージのない都市でした。

が、2017年より一気に注目度が増したように思います。ニュースメディアでも「アジアのシリコンバレー」と呼ばれ、BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)が本社や主要拠点を構え優秀な人材が集結していることが報じられました。

世界最大の通信機器ベンダー・ファーウェイ、商用ドローン世界最大手・DJIの本社、スマホを中核としてIoT機器を開発するシャオミも旗艦店を構えていることで有名です。

川ノ上さんの素晴らしいところは、トリリンガルの語学力を活かして現地の情報を吸い上げて、「次に来る」エリアや企業、サービスなどの最新動向をいち早くキャッチするスピード感。

今年、そんな川ノ上さんが深センの次に注目しているという「貴州・貴陽市」についてのインタビュー記事を執筆させていただいたのですが、今回の講演は深センと貴陽の両方を取り扱うとのことで、かねてより注目していました。

まずは、深セン。

平均年齢32歳、人口1500万人を超えるも、深センの戸籍を持っている人は3割程度。BATをはじめとする世界的なIT企業が多く、優秀な人材集まる→輩出される→起業する→BATなどと連携して事業を行うといったエコシステムが確立しているとのこと。

しかも、それを行政が後押ししているというのが面白いですね。産業基地を行政主導で整備し、南山区、宝安区などの区ごとに得意分野を分けている。いろんなことを同時進行で進めて、うまく行くものを選んで育てる(失敗したらすぐ撤収)という文化は、深センならではのようです。

まさに、都市をあげて様々な新しい試みを実験している、「R&D都市」。深センを理解するには「深セン10大思想」が足がかりになりそうです。

今回の講演では深セン10大思想の一部や、産業基地の開発状況など、最新情報を交えながら深センについての考察を伺えて刺激的でした。

「深セン速度」という言葉もあるように、あっという間に状況が変わるのが深セン。次にお話を伺うときには、また違ったお話になるのかなあ、なんて思いました。

次に、貴陽。

人口は350万人。中国最貧地区とも言われ、少数民族も多いエリア出そう。CGPも低く治安もよくない地域ですが、国家級のビッグデータエキスポ&フォーラムが貴陽で開催されているとか。

このエキスポには習近平主席がメッセージを送ったり、ジャック・マー(アリババ)、ポニー・マー(テンセント)、レイ・ジュン(シャオミ)など、そうそうたるメンバーが講演に訪れているそうです。

貴陽ではすでにビッグデータ行政が実現しつつあり、顔認証システムによる治安改善を始め、様々な産業でビッグデータの活用が官民タッグを組んで進められているとのこと。

医療、物流、農業、自動運転など、さまざまな領域でビッグデータ活用前提で社会基盤の構築が進んでいる点は、日本でも参考になることが多そうです。

深センと貴陽の違い

「特区」指定を機に行政主導で街が大きく変わっている、という点は似ているようですが、深センは優秀な人材がどんどん集まっているのに対して、貴陽はまだまだ人材不足が否めないという点は違っていそうです。

あと、日本で入手できる情報量も、圧倒的に深センが多そうですね。ジェトロによると貴陽にも、野村マイクロ・サイエンス(株)、(株)ユーキャンといった日系企業が進出しているようです。(何をされているのか、逆に気になります。後日調べようっと。)

多岐にわたる産業のR&Dがある深センに対して、サーバー設置場所としても好条件の貴陽はビッグデータ関連の企業が集結する。新技術やサービスのR&Dは深センで、社会への実装やデータ解析は貴陽で、といった流れになる、というのが川ノ上さんの現状の見立て。(←と、私は理解しました・・!)

とはいえ、このあたりも、どんどん変わっていくのでしょうね。

一帯一路構想との関わり

中国の世界進出といえば、現在のシルクロードとも言われる「一帯一路構想」が有名です。一帯一路は失敗した(?)と報じられることもあるようですが、現地にいる川ノ上さんの見立てでは「着々と進行中」といった所のようです。

最近オープンした南山知的財産保護センターでは、世界中の知財に関するニュースを見ることができるそうなのですが、エリアごとにカテゴライズされたパネルには、しっかりと「一帯一路」というカテゴリがあったそう。

直接的には一帯一路の窓口ではないものの、深センや貴陽から周辺の二級都市、三級都市へとリープフロッグ現象が派生していった先に、アフリカまで及ぶ一帯一路構想があるように思えるといった話もあり、大変興味深い講演でした。

12月に日経ビジネススクールさん主催で、深センと貴陽の現地視察ツアーが開催される予定です。川ノ上さんアテンド。私も行きたいですが・・・!興味ある方はぜひこちらから詳細ご覧ください。

 

深センも貴陽も、私個人の生活からは遠く離れた存在ですが、ここから生まれる新たな技術やサービスに、私たちの生活様式や働き方が大きく影響を受けることは間違いないと思っています。

子ども世代からすると、早めに抑えてておいて損はない情報だと思います。日本とは違った状況を知ることで、学びの方向性を再確認(そして適宜チューニングして)、自らの強み・競合優位性を意識することができ、だからこそのびのびと学べるはずだと思うのです。

深センも貴陽もこれからさらに、変化していくのだろうから、機会があればまた最新情報をアップデートしていきたいです。

貴陽をテーマに連載記事を執筆させていただきました。ぜひお読みください。

あのBATも注目 中国・貴陽が「デジタルバレー都市」に成長へ(日経BizGate)
中国・貴陽、「インターネット医療」で地域格差の壁乗り越えろ(日経BizGate)
中国・貴陽、「農業テック」が生む新たな雇用(日経BizGate)
中国・貴陽、「物流版ウーバー」は世界を視野に(日経BizGate)

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