連載【共働き夫婦「家事育児の分担」を円滑に】vol.3では、世代によって異なる「当たり前」のかたちについて考えてみます。
前回の連載vol.2では、すでに共働きは当たり前だということと、一方で家事育児分担が女性に偏りすぎている現状について、客観的な数値データから現況理解を図りました。
今回は、共働き世帯といっても、みんなが同じ不満や課題を感じているわけではなさそうだということについて、掘り下げてみます。
家庭科って、男子も必修になったの?
連載vol.1を掲載前、夫にチェックしてもらったあとの、感想の1つがこれ。
「家庭科って、男子も必修になってたんだね。」
そうですよね〜。
中高で男子が家庭科を履修しなかった世代の人が、「いまは男子も家庭科を習ってる」なんて知る機会は、あまりありません。
私も、働き方改革の取材をするなかで知って、それまでは考えたこともなかったので、目から鱗だったのですが・・・
実は、家庭科の男女必修化を境に、家事育児分担への意識に関して、世代間ギャップがありそうなのです。
あ・・・私たちの歳が、バレてしまう(笑)。
家事育児分担と家庭科の男女必修化
家庭科が男女ともに必修化されたのは、中学校で1993年、高等学校で1994年。
国連で「女性差別撤廃条約」が採択されて、日本も批准したことを受けて実現したようです。
このファクトからよく指摘されるのは、「家庭科を履修していない、家事スキルがそもそも低い男性が、家事育児分担を妻レベルでやるのは無理」ということ。
一人暮らしなら男性でも家事スキルは上がるはず!というお声もあるかと思いますが・・・
私は、「あ、そっか。習ってないなら、仕方ないよね。」と妙に納得した(怒りが鎮まった)ことを覚えています。
単純すぎますかね・・・(笑)。
「意識の醸成」にも差異
佐賀大学教育学部 中西雪夫教授が書かれた「男女共通必修家庭科の成果と課題」という論文にある、家庭科が男女ともに必修化された成果についての記述を読むと、
10年前の論文ですが、家庭科の男女必修化の前後で、男女平等意識や多様な家族観、家事育児分担に対する意識について、差異が生じていることが伺えます。
家庭科を学んだ男子高校生は、多様な家族観が形成 され、自分の家族に対しても好意的になると共に、男女平等な意識が形成され、家事への参加率も高いことが明らかになった。男女共学で家庭科を学んだ男子高校生は、親になることへの 準備状態も良好であることなども明らかになった。また、男女共学で家庭科を学んだ女子は 、女子だけで家庭科を学んだ女子よりも、多様な家族観が形成され、男女平等な意識が形成されていることなどが明らかになった。
(「男女共通必修家庭科の成果と課題」より引用)
受けた教育が異なるなどの、育った時代背景が異なる世代では、家事育児の分担に対するそもそもの意識が、だいぶ違うのかもしれません。
世代によって異なる「当たり前」のかたち
もちろん、家事育児分担に対する意識は、家庭科の履修だけが影響しているわけではありません。
先に紹介した論文でも、中高で家庭科を履修したあと、社会人を経てから家庭生活を営むまでに時間があるため、その影響力が低下する可能性があることを示唆しています。
家庭科のほかにも、家庭などの生育環境の影響は大きいです。
「家事育児は母親の仕事だった」という場合、男女ともに、それがスタンダードであり、自分たちもそうあるべきだと考える傾向が強いようです。
連載vol.2 でも紹介したように、共働き世帯数が専業主婦がいる世帯数を抜いたのは、1997年ですから、↓再掲します
「母親は専業主婦」という姿を見て育った人と、そうではない環境で育った人とでは、家事育児に対する意識は根本的に異なるでしょう。
これはざっくりした仮説ですが、40代以上の世代と、20〜30代とでは、家事育児分担におけるスタンスが異なるのではないでしょうか。
取材だったり、キャリア相談をお受けするなかでも、そんな実感があります。
家庭にも職場にも、世代間ギャップはある
年齢という属性だけでは測れませんが、
「家庭にも職場にも、家事育児分担に対する意識については、世代間ギャップはある」
ということを覚えておくだけでも、気持ちがラクになるのではないでしょうか。
それぞれが生きてきた時代背景や、社会から要求された価値観が異なれば、
義父母や実親、夫、あるいは職場の上司や先輩などと考え方が違ったり、先輩世代にロールモデルが見つからない、部下の要望を受け入れ難いなどのギャップが生まれるのは、当たり前なのかもしれません。
ちなみに、少し前までは、
「男性の年配上司が、男性の家事育児参加を阻む」という構図がよく問題視されていましたが、
2020年3月にアデコが発表した「子育て世代男性会社員の家事・育児分担に関する意識調査」によると、最近は、50代の管理職も若手社員の家事育児参加を認めるようになったようです。
一方で、仕事や業務はこれまで通りの姿勢を求めている点は見逃せませんが、変化の兆しが見えるといえます。
「子どもの看護のため休む」、「残業をしない」、「飲み会に来ない」については、ほとんどの管理職が理解を示していることがわかりました。その一方で、「異動を受け入れない」、「仕事・業務を選ぶ」といった仕事・業務に直接的に関わることを拒否することには寛容度が低いことがわかりました。また、男性部下より女性部下への寛容度が高い傾向となりました。
(「子育て世代男性会社員の家事・育児分担に関する意識調査」プレスリリースより引用)
いま、コロナウイルスの影響もあって、働き方や家族のあり方が見直されています。
これからも、時代や社会が要請する価値観は、変わっていくでしょう。
いまの相違を認識しつつ、ともに未来を見据えることで、意識のズレも少しずつすりあっていくものだと信じています。
※内閣府 男女平等参画白書(平成30年版)と、独立行政法人労働政策研究・研修機構 専業主婦世帯と共働き世帯 より数値を引用して作図いたしました。
※引用文の原文は下記になります。
・「男女共通必修家庭科の成果と課題」の原文はこちら
・「子育て世代男性会社員の家事・育児分担に関する意識調査」プレスリリース の原文はこちら
vol.4 — 家事育児分担のよくある打ち手(1/3)は、こちらに掲載。
▼連載初回は、「共働き家事育児」の総論(まとめ)を図解しています。